イスラム原理主義者と同居しています。
ボルドー近郊で働くため、住むところを探すことになった去年8月。
車の無い私は、とにかく職場から近いところ、という条件で、 コロカシォン(ルームシェア)をBon coin (ヤフオクのフランス版)で見つけ、 広告主と連絡を取りあっさりと住居確保に成功したのですが。
家主は45歳のアルジェリア人女性、11歳と6歳の娘さんがいらっしゃいます。
この娘さん2人の他、すでに独立して別の町にいる19歳の息子さんもいるそうで どうやら子供3人とも父親は違うようです。
現在、トルコ系仏人の元夫と離婚調停中で、この年末休みにイラク人の彼氏ができて すでに一緒に住んでいます。
彼氏、毎朝メッカに向かって礼拝しています。
ここまでの情報で分かるように、彼女はイスラム教徒です。
豚肉・アルコールは口にしない(手で触るのも嫌だとか)、
でもスカーフやブルカは着用していないので、服装の面ではイスラム教徒と分からないし、フランス人のように男性ともビズ(ほっぺにキスするあいさつ)するし、わりと開けた人だと思っていたのです・・・その日までは。
ある夜のこと、彼女が大笑いで私に話しかける。
「知ってる?人間は動物の子孫なんだってよ!」
彼女の言葉の意味が分からずに私の脳は一時停止する。
「娘たちの学校の先生たちは、サルが人間になったなんて 教えてるんだって。笑っちゃうでしょ?
最初の人類の名前は?アダム。その妻が、イヴ。知ってる?」
「ええ、まぁ、アダムとイヴは知ってます」
私はアダムとイヴの名前を存じ上げています、と言っただけで、最初の人類がこの2人であると同調したつもりはまったくないが、彼女は大変満足そうにうなずき、 「ヴォアラ(Voilà) ! そうなのよ。書いてあるのよ、コーランに! 神様が人間を作ったのよ! それなのに学校の先生は、海のバクテリアが動物になって、 動物が人間になったなんて、とんでもないこと言うんだから!」
バクテリアぁぁぁあーーーーはははは
彼女はまさにMDR(mord de rire・笑い死ぬ)状態で、どうやら 本気で笑ってる。ふざけているわけではない。
いや、彼女自身は本気でふざけて進化論をバカにしているのだ。
娘2人は、微妙な顔で黙って私を見ている。
どうやら私は今、38年生きてきて初めて、進化論を信じない原理主義者に出会ったらしい。
ともかく、この事実を受け入れるのは少し時間がかかった。
私は信仰や信条で人を差別するのは良くないと信じてきたが、 実際に対面してみて、少し揺らいだ。
心情的に、「どうしても受け入れられない」
一刻も早く彼女の家から引き払いたい、と思った。
彼女の見た目はいかにも肝っ玉母さんといったかんじ(つまり太い)、 ごみの分別を一切しない、電話でしゃべる声がやたら大きい、など 生活面で「ううう・・・」って部分があるにしても、
「イスラムの教えでは困った人を助けるのは功徳になるんだ」と私には親切にしてくれるし、11月のテロの時は、 「コーランには他人を殺すものは神を殺すもの、と書いてある」と テロリストを容赦なく批判していた。
娘2人はお母さん大好きで、愛情たっぷりに育っているのが見ていて良く分かる。
個人的に親切にされているからだけでなく、客観的に見ても彼女は悪人ではない。
なのになんで私は、「進化論を否定するから」という理由でここまで拒絶反応を起こしてるんだろう。私には実害なんてないのに。
いろいろ考えてしまう。
今フランスで起こるテロの一因である、イスラム教系移民(の2世、3世)がフランス社会になじめない問題。
そりゃ、学校の先生と大好きなお母さんの意見が真っ向から対立していたら 子供たちは混乱するだろうし、フランス社会になじむのは大変だろうと思う。
そして、進化論を信じない、などの目に見えないけど強烈な「原理主義」を 持つのは彼女一人じゃないだろうということ。
だって、彼女はフランスに20年以上住んでいる、40代の女性で、
山奥の修行僧とか、90歳のお年寄りでもないんですよ。
漠然と怖くなる。
この問題は、私が考えていたよりもずっと複雑で、身近にあって フランスに永住するつもりなら、避けて通れない。
しかも、「自分はこう考えるからこういう姿勢である」と 必要であればいつでも主張できるよう、情報をアップデートしなきゃいけない、
なんだかそんな強制力を感じてしまって、精神的に消耗します。
これが短期の旅行だったら、おもろいネタありがとー!で済むんだけど、ね。